潮騒は聞こえず(18)

チャーリーは戦争が終わっても国に帰ろうとはしなかった。確かに女房や子供を残してはいるが、でも帰る気はしなかった。軍隊に入隊した頃は軍隊生活が嫌で仕方がなかったが、階級が上がって来るにつれ居心地は格段に良くなって来た。軍隊は階級が全てである。人種差別が存在しない。軍隊と言う集団は戦争をする為のチームプレーを絶対視する。身分差別が入り込む様だと真の意味でのチームプレーは成立しない。黒人とか白人とかの人種差別が入り出すと厳しい軍律が維持出来なくなる。階級と指示系統の確立こそが軍隊の生命線そのものと言える。ヨークのハーレムで言われ慣れた「このニガー野郎」などとチャーリーを見下げる人間は軍隊では誰もいない。そして彼は今や押しも押されぬ少尉だ。黒人でここまでの地位にまで昇って来るのは稀である。かっては自分などに鼻も引っかけなかった白人達が彼とすれ違うたびに直立不動の最敬礼をするのだ、その階級ゆえに。戦争が終わったからと言って又あの黒人社会にすぐ帰りたいと思わなかったのは当然過ぎる気持だった。そこで彼はGHQ(連合国最高司令部)マッカーサー元帥の指揮下に編入される事を希望し、運良くそれが許された。
明日に続く
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