診察室からコンニチハ(94)

良質の医療サービスを提供しているのだから、それ相応の室料差額が発生しても仕方がないと云う理論は通用しなくなって来たのです。患者さんの自己負担額を少しでも下げなければ、入院ベッドはどんどん空室が目立ち始めました。
生活保護者の入院は、それまでかなり人数を制限していたのですが、そんな事も言えなくなってしまいました。どんな患者さんでも積極的に受け入れるしかないのです。
平成22年頃からは、病院から得られる私の個人収入はゼロになる年が多くなりました。我が家の生活費は、それまでの貯金を切り崩して生活するのが慢性化していました。何枚か持っていたゴルフ会員権を売却したり、リゾートマンションを手放したりして食い繋いでいたと言っても過言ではなかったのです。数年に一度くらいはそれなりの収入が得られる年もありましたが、それでも私の病院で働いている常勤医と同額ぐらいでした。ともかく日本中がダンピング競争の渦に巻き込まれていたのです。デパートの洋服売り場は、何処もガラガラです。昨今では中国人の富裕層が日本で爆買いする傾向が強くなり、一部の高級店が息を吹き返していますが。
都市部の病院は、人件費の増大と室料差額の値下げ競争で経常利益は悪化する一方の状態に突入しています。私立の大学病院と言えども、この例に漏れず巨額な負債を抱えるところが増えています。病院経営は正にサバイバルゲームと化しています。
かって、
「医は仁術でなく、算術になり果てた」
との悪口が世間で盛んに吹聴されていましたが、今や算術ではなく、医は高等数学になっています。ベッド稼働率を如何に高めるか、入院期間をどれだけ短くして1ベッドの収益率を上げるか、リハビリの施設基準や看護基準を効率良くクリアして、どれだけ保険収入を高める事が出来るのか、考えるべき方程式は限りなくあるのです。算術などと云う単純な数式では、病院経営は成り立たないのです。
理想の医療を追求する前に大きな壁が幾つもあって、その壁の厚みが年々増して行くのです。日本経済の衰退と共に医療の規制はより厳しくなって行きます。それでいて医師や看護師の給与体系は、より高くなっています。
正に病院経営は四面楚歌の状態にあると言えるのです。水面下での病院倒産も相次いでいます。医師や看護師の誰もが変わらないから、外見では倒産とは分かりません。人知れずに経営者だけが変わっているのです、個人的な破産宣告を告げられて…
30年以上も病院長と事務長が一度も変わらないのは、横浜市では多分私の病院だけかもしれません。
次回に続く
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