診察室からコンニチハ(116)

☆アメリカ精神医学会(APA)のECTガイドラインでは、精神病、躁せん妄、緊張病の伴う深刻な抑うつについて早期のECTを実施する明確なコンセンサスがあるとしています。APAの2009年ガイドラインでは予防段階でのECT使用を支持しています。
☆2003年の英国国立医療技術評価機構(NICE)のECTガイドラインでは、重症のうつ病、継続する重症の躁エピソード、緊張病のみに用いられるべき(英語: should only be used)だとしています。
☆2009年(英)のガイドラインは以下の通りです。成人の抑うつに対しては、急性期の深刻な抑うつであり、生命危機に迫った救急状況、もしくはその他の治療手法が失敗した場合に検討するとしています。標準的なうつ病に対しては、繰り返しECTを行ってはならないが、だが複数の薬物治療と心理療法に効果を示さない場合は検討出来るとしています。
NICE(英)は、再発性うつ病の予防のため長期のECTを行ってはならず、統合失調症の一般的管理にECTを用いてはならないと勧告しております。NICEの成人の抑うつ治療ガイドラインでも同じ立場です。
【ECT副作用】
2001年より、APAは永続的な逆行性(術前の)健忘症に関しての説明を含んだ同意書を強く推奨しています。混乱はよくあり問題を生じさせず、順行性(術後の)健忘症は数週間から数か月続くことがあり、自伝的な記憶に関する永続的な逆行性健忘は、1/3の人々に生じうる頻繁かつ重篤な副作用のひとつであるとしています。
また以下のような副作用も十分に考慮すべきです。
①心血管系の障害:筋はけいれんしなくても、通電直後数秒間に迷走神経を介した副交感神経系の興奮が生じ、徐脈や心拍停止、血圧の低下を生じることがあります。またカテコールアミン放出を伴う交感神経系の興奮が惹起され、頻脈や血圧上昇、不整脈などが起こることもあります。
②認知障害:通電直後に生じ、見当識障害、前向性健忘(以前の記憶はあるが、ECT後の出来事などが覚えられなくなる)や逆行性健忘(新しいことは覚えられるが、以前の記憶、特にECT施行直前の記憶がなくなっている)が見られることがあり、老人に頻度が高いと言われています。多くは時間とともに回復します。失見当識・前向性健忘は比較的短時間に回復し、逆行性健忘は回復が緩徐です。また、そのまま認知機能の低下が遷延するという例も少数だが報告されています。なおオウム真理教の修行の一つであるニューナルコはこの副作用を応用したものでした。
③躁転:時に多幸的・脱抑制・易刺激性を伴い、双極性障害患者において特に躁転する頻度が高いと言われています。
④頭痛:45%程度の患者が自覚するとされています。拍動を伴う前頭部痛を示す事が多く、電極配置や刺激強度などとは関連しません。
NICEは、妊娠女性、高齢者、若年者については、合併症リスクがより高い(英語: higher risk of complications)ため、注意深くECTを実施すべきだとしています。
【安全性】
死亡または重度障害の危険は、5万回に1回程度であり、出産に伴う危険よりもはるかに低いと報告されています。
アメリカ精神医学会タスクフォースレポートによれば、絶対的な医学的禁忌といったものも存在しないとされています。
ドイツのゲルト・フーバーによると、器質性の脳傷害と重傷の一般的な身体疾患(とりわけ心臓-循環器疾患)を禁忌としています。水野昭夫によれば、絶対的禁忌として頭蓋内圧亢進症を挙げております。
☆独シーメンス社が1960年に製造したECT装置で2001年には、年間およそ1000万人がECTを受けたと推測されています。
☆事前に処方薬の調整を行う。リチウムは脳内濃度が上昇する可能性があるので中止、抗てんかん薬はけいれんを生じにくくするので中止、ベンゾジアゼピン系薬物もけいれんを生じにくくさせるので減量、抗うつ薬は術中不整脈を起こす危険性を高める可能性があるので中止。なお抗精神病薬は原則として中止する必要はないとされています。
患者が短時間麻酔剤の注射により入眠すると、筋弛緩剤が注射され、約30秒~1分後に900mA、パルス幅0.25~1.5msecのパルス波電流を1~8秒間こめかみまたは前額部などに通電します。通電条件は、従来までは投与電気量を指定する以外は装置の内蔵プログラムに従っていましたが、最近では患者個々の生物物理学的な特性にあわせて設定を変更する試みもなされるようになって来ました。なお、一般にECTを繰り返し行うとけいれん波は生じにくくなり(しばしば「けいれん閾値が上昇した」と表現され)、投与電気量を多くしなければならないと考えられています。
少数の患者は6セッション以下でも治療に反応しますが、大部分の患者は6-12セッションの範囲である事が多いと言われています。頻度は週に2セッション実施される例が殆どです。
各セッションの終了後には、毎回必ず再アセスメントを実施すべきですが、副作用が発生した場合、または患者が治療離脱を申し出た場合には、ただちに治療を中止すべきです。
イギリスにおいて、ECTの6セッションに要する費用は、*2,475スターリング・ポンドです。(入院費用は含まない)
1ポンド=145円の計算で(145円×2475=358,875)ですので、約36万円となります。
次回に続く
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