診察室からコンニチハ(118)

☆1942年 - *マスタードガスの誘導体であるナイトロジェンマスタードが、悪性リンパ腫に有効であることが示され、*抗癌剤の第1号となりました。
*マスタードガス
化学兵器の一つで致死性があり、国際法で禁止されています。第1次世界大戦中、ドイツ軍がベルギーのイーペルで初めて使用したことから「イペリット」とも呼ばれ、旧日本軍が中国戦線で使ったことも明らかになっています。イラン・イラク戦争(1980~88)では、イラク軍がイラン側や自国のクルド人を攻撃するために使用しています。同時に使ったサリンガスなどとあわせ、イラン側だけで約5千人が死亡し、約4万5千人がいまも呼吸障害などの後遺症に苦しんでいると言われています。
【*抗ガン剤の起源は毒ガス】
抗ガン剤の研究開発は、世界の軍事情勢や政治情勢と複雑に絡んでいます。
そもそも抗ガン剤は1915年、第一次世界大戦中にドイツ軍が実際に使用したマスタードガスの研究から始まっています。
このガスは1886年、ドイツ人研究者ヴィクトル・マイヤーが農薬開発の過程でガスの合成に成功、しかし、その毒性があまりにも強いため中毒に陥り実験を中断しました。以後、ドイツ軍の手に渡ったと言われています。
マスタードガスは、皮膚以外にも、消化管や造血器に障害を起こすことが知られていました。この造血器に対する作用を応用し、マスタードガスの誘導体であるナイトロジェンマスタードは抗がん剤として使用され始めました。
ナイトロジェンマスタードの抗がん剤としての研究は第二次世界大戦中に米国で行われていました。
戦争から生まれたり改良されていった医薬品は多いのですが、ちょっと経緯は違うとはいえ、抗ガン剤も戦争の中で生まれたものでした。
その後も新しい抗ガン剤が次々と出てくるわけですが、基本的には作用として、この「最初の概念」が継承されています。
その「概念」というのは、いわゆる薬の作用機序のことで、その成分が先に述べたナイトロジェンマスタードですが、これは兵器としても医薬品としても次のようなものです。
【人体への作用】
マスタードガスは人体を構成する蛋白質や DNA に対して強く作用することが知られており、蛋白質や DNA の窒素と反応し、その構造を変性させたり、 遺伝子を傷つけたりすることで毒性を発揮しています。
このため、皮膚や粘膜などを冒すほか、細胞分裂の阻害を引き起こし、さらに発ガンに関連する遺伝子を傷つければガンを発症する恐れがあり、発ガン性を持つ事にもなります。また抗ガン剤と同様の作用機序であるため、造血器や腸粘膜にも影響が出やすいのです。
これが抗ガン剤として機能する部分は、細胞分裂の阻害を引き起こし、非常に早く増殖していくガン細胞の増殖を食い止めるという作用です。
これが仮にガン細胞に対してとても有効に作用するのだとすれば、同時に、やはり当然ではあるのですが、「全身すべての細胞をも攻撃してしまう」という作用もあります。これは副作用というより、抗ガン剤というものの作用そのものですので「副」ではなく本作用です。
抗ガン剤というものが「細胞分裂を食い止める」ために開発されたものですので、起きることが必然だとも言えます。
たとえば、抗ガン剤の治療中には必ず定期的に白血球の数値などを調べます。これが低すぎる場合は、普通は抗ガン剤治療は一時的に中止されるはずです。
白血球の数値が異常に低くなっているということは、「抗ガン剤が健康な細胞を殺しすぎている(細胞生成が阻害されすぎている)」ということをしているためです。それ以上続けておこなうと、正常な細胞への影響のほうが大きくなり危険だということになります。
次回に続く
関連記事

コメント