診察室からコンニチハ(132)

ここで少し感染症の問題に話を戻す事をお許し下さい。それは抗生剤と耐性菌の因果関係について考えてみたいのです。さらには免疫力の問題にも関係してくるのです。
1928年ペニシリンがフレミング(英)により発見されて以来、耐性菌の問題は常に我々に付き纏っています。
抗菌薬(抗生剤)は、われわれにとってそこまで大きな毒性はありませんが、細菌にとっては猛毒です。そのため、細菌はあの手この手でその毒から逃げ延びようとします。
細菌の立場から考えてみると、身に降りかかる抗菌薬という猛毒から逃れるために例えば、分厚い服でガードして毒が入ってこないようにするかもしれません。または入ってきた毒を外に吸い出したり、解毒剤を使って毒物を分解したりするかもしれません。
細菌も同じような方法で、入ってきた毒、すなわち抗菌薬を無効にしようと試みます。以下に、細菌の薬剤耐性メカニズムの例を挙げてみます。
【薬剤耐性のメカニズム】
①細菌自体を覆っている膜を変化させて、薬が入って来づらくする(外膜変化)
②細菌に入ってきた毒を外に汲み出してしまう(排出ポンプ機能)
③細菌の中で抗菌薬が作用する部分を変化させ、いざ抗菌薬が入ってきても効果が出ないようにしてしまう(DNAやRNAの変異)
④細菌に届く前に化学反応で分解してしまう(ベータラクタマーゼ作用)
⑤大量のネバネバ液で細菌自体を覆い、薬から身を守る(バイオフィルム)
などがあります。
このような耐性機構は、細菌が本来もっていたり、他の細菌から譲り受けたり、抗菌薬投与により誘導されたりします。
そもそもすべての細菌が病気を引き起こすわけではなく、また人間には非常に数多くの細菌が住み着いているのですが、お互いにバランスを保ち、病気をひき起こすことなく一つの社会を形成しています(これをマイクロバイオームといいます)。
その中で、耐性を獲得しようとする細菌は、自分が持っている本来の能力を一部変化させることにエネルギーを費やすため、細々と生きていることが多いのです。ほかに多数派の細菌が活躍している場合には、少数派の細々とした活動は目立ちにくい、つまりそのような少数派の細々とした細菌の活動が、私たちの体にすぐに病気を起こすわけではないのです。
しかし、多数派がある日突然なくなってしまったらどうでしょうか。この「多数派が突然なくなる」という状況が、「抗菌薬投与」なのです。多数派の細菌には、抗菌薬が効きます。抗菌薬投与により大多数の細菌がやられてしまうと、抗菌薬に対する耐性を得ていた少数派の細菌は、のびのびとどんどん増えることができるようになります。 このように、抗菌薬の投与により抗菌薬の効く菌が減少し、耐性菌が増殖しやすくなる状態を、専門用語で「選択圧がかかる」といいます。
生き残った薬剤耐性菌が増えるのです。
ここで大切なのは、投与される抗菌薬がどのくらいいろいろな菌に効果があるかと、どのくらいの量が投与されるかです。抗菌薬がいろいろな菌に効けば効くほど、耐性菌の活躍を抑えてくれる菌がいなくなってしまいます。幅広い菌に効く抗菌薬は一見優れているようにみえますが、ときに必要な菌たちも殺してしまうのです。
また、例えば5日間飲むべき抗菌薬をよくなったから1日でやめてしまった、本当は1日3回飲まなければいけない抗菌薬を1回でやめてしまったなど、抗菌薬が中途半端に効いた状態になると、さらなる問題が起こります。しっかり使っていればやっつけられていたはずの耐性菌が生き残り(耐性菌の中には全く薬が効かない菌だけでなく、十分な量を使えば倒せるものもいるのです)、薬に弱い菌だけがいなくなるという、「耐性菌に甘く、耐性をもたない菌に厳しい」環境が体にできあがります。
「幅広い菌に効く抗菌薬」を「不十分な量や期間」服用することがいかに薬剤耐性菌にとってよいことか、想像に難くないのではないでしょう。
このようにして、薬剤耐性菌は発生し、ときに体を飛び越えて人から人へ、また、人から環境へと拡散していきます。
次回に続く
関連記事

コメント