診察室からコンニチハ(143)

この iPS細胞がもつ多分化能を利用して様々な細胞を作り出し、例えば糖尿病であれば血糖値を調整する能力をもつ細胞を、神経が切断されてしまうような外傷を負った場合には、失われたネットワークをつなぐことができるように神経細胞を移植するなどのケースが考えられます。 iPS細胞から分化誘導した細胞を移植する細胞移植治療への応用が期待できます。
一方、難治性疾患の患者さんの体細胞からiPS細胞を作り、それを神経、心筋、肝臓、膵臓などの患部の細胞に分化させ、その患部の状態や機能がどのように変化するかを研究し、病気の原因を解明する研究も期待されています。 例えば、脳内にある神経細胞が変化して起こる病気は、外側からアクセスすることが難しく、また変化が進んでしまった細胞からは、正常な状態がどうであったかを推測することが難しいとされてきました。 iPS細胞を用いることで、こうした研究が飛躍的に進む可能性があります。
また、その細胞を利用すれば、人体ではできないような薬剤の有効性や副作用を評価する検査や毒性のテストが可能になり、新しい薬の開発が大いに進むと期待されています。
☆2011年 - イピリムマブ(商品名ヤーボイ)がアメリカ、ヨーロッパで承認されました(日本では2015年)。世界初のヒトCTLA-4モノクローナル抗体医薬品であり、免疫力を高めることにより悪性腫瘍を攻撃する新しいタイプの抗がん剤です。
☆2014年ニボルマブ(商品名*オプジーボ)がアメリカ、日本で承認されています。(ヨーロッパでは翌年)。世界初の*ヒトPD-1モノクローナル抗体医薬品が認可されました。
*ヒトPD-1モノクローナル抗体とは、がん細胞を攻撃するリンパ球T細胞を回復・活性化させ、がん細胞に対する免疫反応を亢進させることで抗腫瘍効果をあらわす薬です。
がん細胞は無秩序な増殖を繰り返したり転移を行うことで、正常な細胞を障害し組織を壊します。
通常であれば、がん細胞は体内で異物とされリンパ球のT細胞によって攻撃を受けますが、がん細胞自身が作るPD-1リガンドという物質でリンパ球の活性化を阻害して、独自の増殖を繰り返しています。
この新薬はPD-1リガンドによるリンパ球の活性化阻害作用をブロックすることで、T細胞のがん細胞を攻撃する作用を高めるのです。
しかし、免疫系の薬剤は薬価があまりに高額な事でも社会問題になっています。例えばオプジーボは2014年に初めて承認された時、対象となるのはメラノーマという皮膚がんだけでした。対象人数が少ないため、薬価は非常に高額に設定され、例えば体重66kgの人(日本人の男性の平均体重)に1年間投与した場合は月におよそ300万円、1年間では3,800万円もの薬価となっていました。
そして翌2015年12月に肺がんの治療薬として適応拡大されます。肺がんの患者さんは多いので、この薬価で多くの患者さんが使うと日本の医療財政が破綻するという騒ぎになり、2017年2月の薬価改定時に当初の半額に引き下げられました。
その後、腎細胞がん、頭頸部がん、胃がんなど更に適用が広がり、それに応じて薬価も引き下げられ、2018年11月現在では当初の4分の1程度の年間1,090万円ほどとなっています。患者さんの個人負担は我が国の医療制度のおかげで、高額療養費制度を利用すれば、オプジーボを1年間使用した場合でも、大多数の方については自己負担額60万円強(年収、年齢により変わります)未満で済むはずです。しかし以前にも記述しました様に年収が1200万円前後(手取り額で800万円前後)の方になると、この自己負担は何倍にも跳ね上がり家のローンなど抱えていると家計は火の車になってしまいます。
次回に続く
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