診察室からコンニチハ(160)

それでは参考までに脳の成熟と子どもの発達過程をみて行きましょう。人間の思考や行動、さらに心や感情の働きなどの精神活動を司るのが大脳である事は周知の事実です。考える力はもちろん、自発的、主体的であるかどうか、心情豊であるかどうか、意欲的、積極的であるかどうか、心優しく接するのか心冷たく接するのかなどはすべて大脳の働きです。その大脳の神経系の成熟が人間としての発達と大きな関連性を示しています。
今日までの大脳生理学や神経科学の成果から、子どもの発達と神経系の成熟との関連を振り返ってみますと、以下のようになります。
(1)まず人間の新たな生命は受精に始まりますが、新生児として誕生してくる時、その新生児の体を構成する細胞の数は、約2兆個といわれています。1個の受精卵が、受精後約40週の間に母親の体内で、約2兆個にまで細胞分裂を繰り返して、新生児の体となり誕生して来るのです。そして、誕生後も細胞分裂を繰り返して成長変化し、成人の体は約60兆個の細胞でその体が構成されていると言われています。従って、新生児が大人になるまでの間に、体を構成する細胞の数は約30倍に増えることになります。この細胞分裂が、身長や体重が増加するという身体的な発達の基となっているのです。
このように身体的な成長変化において約30倍に増える体細胞のなかで、誕生から死に至るまでの間で全く増えない140億個とも160億個ともいわれる細胞の集団があります。それが大脳の神経細胞です。体をつくる細胞は分裂して増え、また、壊れても再生しますが、この大脳の神経細胞は誕生後は増えることはなく、また、壊れても再生しないで壊れたままであり、さらに、ある年齢に達すると逆に壊れて消滅し始めるとも言われています。
そして、脳の重さも新生児で約400グラム、成人で約1400グラムと言われていますが、3才では既に約1100グラム、6才では成人のおおよそ9割に達します。
このとき、脳の働きすなわち大脳の神経系の機能の発揮は、神経細胞の髄鞘形成とシナプスの形成によるものといわれています。
シナプスとは、ニューロン(神経元)とニューロンの接合部です。
あるニューロンの神経線維の末端は、他のニューロンの神経細胞体の一部に接近し、そこから化学伝達物質が放出されます。これをシナプス伝達といいます。
(2)髄鞘形成と子どもの発達
脳の神経細胞のシナプスを形成する軸索にミエリン鞘(髄鞘とも呼ばれ神経科学において、脊椎動物の多くのニューロンの軸索の周りに存在する絶縁性のリン脂質の層を指す。コレステロールの豊富な絶縁性の髄鞘で軸索が覆われることにより神経パルスの電導を高速にする機能がある)が形成されること、すなわち髄鞘形成がその神経細胞の機能の発揮となるといわれますが、その髄鞘形成と機能の発揮の関係については、脳の機能から運動系、知覚系、情動系、意識の4観点から検討されています。それらについては、以下のようなことが指摘されています。
① 運動系
脊髄前根細胞に胎生5ヶ月頃から生後1ヶ月頃までに髄鞘形成が起こり、それに伴い母体内や出生時の不規則な、無目的な、原始的な動きがみられるとされています。平衡覚や共同運動に関する小脳系の髄鞘形成は胎生7ヶ月頃から起こり、生後5から8ヶ月頃に終了し、それに応じて、首が据わり、座位が可能となり、身体緊張のバランスが取れるようになります。
また、随意運動に関する神経系の髄鞘形成は、出生直後から始まり、1から2歳までの間に完成します。この時期の子どもが興味を持つ遊びに、おはじきのような小さな物を指先でつまんで箱から出したり、また、箱に入れたりすることや、ボタンなどの穴のあいたものに紐を通すような遊びがあります。これは自分の意思で自分の指先を細かく操作することができるようになった喜びを味わっている姿といえますが、それも指先を随意的に操作する神経系の髄鞘形成と対応するものがあります。
このような運動系の神経系の髄鞘形成に対応して、這い這い、起立、歩行と運動機能が高まり、2歳頃までに、基本要素的な運動機能が発達してきます。
次回に続く
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