診察室からコンニチハ(165)

これまで、自閉症研究の多くは、タンパク質を合成する遺伝子のみの変異を特定することに焦点が当てられていた為に既知のヒト遺伝子20,000個と、それらの遺伝子をコントロールする周辺領域に絞って分析されていました。その膨大な情報量でさえヒトゲノム32億の塩基配列のなかの1~2パーセントほどでしかありません。これらの遺伝子が突然変異を起こすと、うまく機能しない変異タンパク質が作り出されます。
その一方で、タンパク質に翻訳されることのない残り98パーセント以上のゲノム「非コードDNA」は、どんな機能があるのか全貌が明らかにされていませんでした。それが、かつて「ジャンク(故障して、使用不可)」と呼ばれていた理由です。
ところが近年、この膨大な「非コードDNA」には重要な発現調整機能があることが明らかになってきました。これらの領域にあるゲノムが突然変異を起こすと、遺伝子の発現調節機能が混乱します。それらは遺伝子の作り出すタンパク質自体に変異を起こすわけではなく、いつ、どのくらい作り出すのかといった制御機能に影響を及ぼすと言われています。
さらに研究チーム(プリンストン大学コンピューターサイエンス)は、1,790人の自閉症の子どもたちと、「正常」と診断された家族の全ゲノムをディープラーニング(深層学習)により分析しました。なお、この調査では遺伝的な要素を除外するために、当事者以外は自閉症の罹患歴のない家族グループが選ばれました。つまり遺伝性のない孤発性自閉症スペクトラムは、膨大な「非コードDNA」の中にある何らかの突然変異によるものかを突き止めためたかったのです。
その分析結果によると、自閉症患者の「非コードDNA領域」では、家族のメンバーと比べて多くの突然変異がみられたといいます。研究者らはこれらの制御機構の突然変異が、逆にどの遺伝子に影響するのかを調査しました。すると、そのほとんどがシナプス伝達およびニューロン発達に強く関連する脳機能の遺伝子であることが判明したのです。
なお、それらの突然変異のなかには、以前の研究で特定された自閉症関連の遺伝子もありました。しかしそれらの突然変異は、孤発性自閉症患者の30パーセント未満だったと同論文では報告されています。研究チームによると、今回新たに発見された非コード領域の突然変異は、より多くの自閉症関連遺伝子を検出するだろうとのことでした。なお、このような突然変異は、胚と同様、精子細胞と卵細胞で自然に起こり得るものでありました。
「これは非遺伝性の非コードDNA変異が、複雑なヒトの疾患または障害を引き起こすことを示した最初の研究です」
と話すのは、同研究チームのプリンストン大学、オルガ・トロヤンスカヤ博士です。この知見は、自閉症だけにとどまりません。
次回に続く
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