診察室からコンニチハ(168)

突然ですが、しばらく臨時講演をさせて下さい。今や社会問題化している
【後期高齢者の運転免許】(1)
についての話です。
「認知症が疑われますので、診断をお願いします」という依頼を受ける医師は、一般内科でも、時にはみられます。認知症専門医は当然として、神経内科、精神科などでも、この様な依頼の書類を受ける事が多くなりそうです。
高齢者が免許更新のために免許センターに足を運んだ時に簡単なチェックを行い、そこでひっかかった場合、後に本人のところにこの書類が送られてきます。もしくは一時停止違反などで警察と接点があっても、やはり送られることがあります。
 この書類作成業務、いくつかの点で問題ありありです。
1) 本人が一人で来るとお手上げ。
2) 家族が来ても診断に協力的でないとお手上げ。
3)逆恨みされやすい
などです。
一概にMRIや長谷川スケールだけでは、医師としては判断に迷う事が多いと思います。
世間一般では、検査や診察をすれば、認知症かそうでないかをクリアカットに判別できるものだと思われています。一般の方も、そして公安委員会もそう考えているのでしょう。やむを得ないことではあります。
ここで認知症の定義を見てみましょう。 「記憶障害に加えて、失語・失行・失認などの障害があり、生活に支障をきたすようになった状態」
年相応のもの忘れだけでは、認知症とは言えませんし、記憶力などは長谷川式でおおむね判断できるとして、ネックは後半にあります。生活に支障をきたしているかは、診察室ではまずわかりません。これまで継続的に通っていて接触頻度が多い方であれば、最近薬の飲み忘れが多いよねとか、この間は検査を忘れてドタキャンしたとか、「生活に支障をきたし ていることがうかがえるエピソードを拾い上げられる確率」が高まります。でも実際には、この書類をもらって初めて受診しましたという方の方が圧倒的に多いのが実情です。
本人に聞いてみますか?
でも、考えてみて下さい。認知症の患者さんはしばしば病識(自分が病気であるという認識)がありません。生活に支障がないと思っているのは本人だけで、 実は周りに支障があり大変ということは少なくないのです。運転ミスも、周りに支障がでる典型ですね。
そしてもし本人が「最近ちょっともの忘れするな...」と自覚したり、生活の中で困っていることがあったとしても、診察室で正直にそれを申告するでしょうか。免許を更新したくてわざわざ免許センターに行って、更に面倒くさい思いをして慣れないクリニックを受診しているのです。それもこれもすべて「免許を取り上げられると困るから」わざわざ自分に不利になるようなことを言わずに口をつぐむ方が、普通ではないでしょうか。
かくして一人で来院した場合、一切の外部情報がない状態で診断を迫られることになるのです。これは難しいというか、正確な判断は不可能と言わざるをえません。
付き添いの家族がいれば万々歳かと言うと、そうとも言えません。夫婦は同年代だから、 来院患者と同じくらい認知症らしい連れ合いだった場合どうしましょう。 「じいちゃんは、私なんかよりよっぽどしっかりしています」とおばあちゃんに言われて、 生活に支障なしとしていいものか。
娘さんなどそれなりにしっかりした付き添いでも別の問題が生じます。免許が欲しくて家族が同行受診しているのに、本人に不利益になる情報をきちんと言ってくれるかということです。夫婦 2人のどちらかが運転できれば何とか生活は回るが、免許返納となると特に地方 では一大事。生活パターンをガラリと変えざるを得ません。日々の買い物から医療機関受診まで、運転をできる子供世代が全面的にサポートしなくては生活が回らなくなるため、子供世代の生活にまで影響が及ぶのが実情です。そうなると共犯で「もの忘れは年相応くらいだと思います」と言ってしまっても、おかしくないのです。
次回に続く
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