診察室からコンニチハ(210)

新型インフルエンザは季節性インフルエンザと異なり、ほとんどの人が初めて直面するタイプであるため有効な免疫を持っていません。そのため、世界的な大流行を引き起こし、死亡率も高くなる可能性があります。
2009年に大流行した新型インフルエンザ(H1N1型)は、日本だけでなく世界中で猛威をふるいました。
発生源は豚の間で流行していた豚インフルエンザウイルスとされ、これが農場などで豚から人に直接感染し、それから新型ウイルスとして人の間で広まったとされています。新型インフルエンザ、豚インフルエンザ(swine flu)、A型H1N1亜型インフルエンザ、H1N1インフル(H1N1 flu)など幾つかの呼称があります。
この流行が大きな問題になったのは、流行初期にメキシコにおける感染死亡率が非常に高いと報道されたからですが、実際には重症急性呼吸器症候群(SARS)のような高い死亡率は示してはいませんでした。当時の日本では、感染症予防法第6条第7項の「新型インフルエンザ等感染症」の一つに該当すると見なされ、感染者は強制入院の対象となりましたが、2009年6月19日に厚生労働省が方針を変更してからはこの扱いはなくなり、季節性インフルエンザとほぼ同様の扱いとなっています。
A(H1N1)pdm09型に対するインフルエンザワクチンは既に完成しています。2010年 - 2011年冬シーズンから接種可能なインフルエンザワクチンは、通常の季節性インフルエンザワクチン2種に加えて、新型インフルエンザワクチンにも対応した3価ワクチンに、2015年 - 2016年冬シーズンからは、A型株2価とB型株2価の4価ワクチンになっています。
このインフルエンザウイルスはエンベロープ(ウイルス粒子をの外側を囲む膜のこと。その膜に存在し、ウイルス特異的な抗体を作る免疫反応を引き起こすタンパク質)で、直径80-120nm 『ナノメートル:nmは、国際単位系の長さの単位で、10億分の1メートル』に覆われた球形のウイルスで、粒子内部には直接メッセンジャーRNA(mRNA)とはならない8分節したRNA、及びA、B、Cの型を担う核タンパク(NP)、並びに膜タンパク(M1)などを持っています。
また表面には感染を担うHA(ヘマアグルチニン:「ヘマグルチニンとは、インフルエンザウイルス、およびその他多くの細菌、ウイルスの表面上に存在する抗原性糖タンパク質」で、感染細胞から離脱する際に機能するNA(ノイラミニダーゼ)がスパイク(突起)のように現われています。
A型インフルエンザウイルスのHA、NAには型があって、その抗原性の違いでHAは16種類(H1 ~ H16)、NAは9種類(N1~N9)の亜型に、分類されます。
さてインフルエンザウイルスは抗原変異を頻繁に繰り返すウイルスとしてよく知られていますが、変異には抗原連続変異(antigen drift)と抗原不連続変異(antigen shift)の2種類があり、特に大きく抗原性の変わる抗原不連続変異は大流行の原因となって問題視されることになります。
A 型インフルエンザウイルスは動物種ごとにHA、NAの色々な亜型の組み合わせを持っており(例えばトリ:H5N1、ヒト:H1N1など)、亜型によって動物種ごとの細胞への親和性、すなわち感染のし易さの異なることが分かっています。
例えばトリの主な亜型H5N1 はヒトに、またヒトの主な亜型で季節性インフルエンザを担っているH1N1 はトリに感染し難いと考えられます。
これは細胞表面に存在するウイルスレセプター(HAが結合)であるシアル酸の構造の違いに由来しトリとヒトでは構造が異なりますので、それが亜型ごとの感染のし易さ、し難さとなって現れます。ところが動物種によってはトリ型、ヒト型両方が容易に感染する場合があり、その問題となる種がブタと考えられています。
インフルエンザウイルスのゲノムRNA は8分節していますが、それぞれの分節RNA(1~8)で、コードされているウイルスタンパクが異なっています。
通常は一種類のウイルスしか感染しないので、RNA が複製に伴っての小規模な変異である抗原連続変異は起こり得ますが、大規模な変異である抗原不連続変異は起こりません。
しかし、同一の個体(ブタ)の同一細胞に亜型の異なる2種類以上のウイルスが重複感染すると体内(細胞内)で分節したゲノムRNAのシャッフルが起こり、RNAがランダムに組み合わさった全く新しいタイプのウイルスの出現、すなわち抗原不連続変異の可能性が高まることになります。
またブタはヒトのロシアかぜ、香港かぜに類似のブタインフルエンザH1N1、及びH3N2に感染し、これらが更にヒトへ感染を起こす可能性があります。そして、今まさに感染を引き起こしているブタ由来新型インフルエンザがこれにあたる訳です。
ところで、HA には5個(A~E)のエピトープ(抗体が結合する抗原決定基)があって、エピトープの変異が進むと、異なった亜型へ変わることになります。
変異を繰り返した結果、現在のような亜型(H1~H16)が獲得され、NA の変異(N1~N9)も相まって、A型インフルエンザウイルスの多くの亜型が種々の動物種に分布するに至りました。
多くの種々の亜型が存在すると言うことは、トリ、ヒト由来の共通の宿主になり得るブタが、新型の供給元になり得る可能性を常に秘めているということでもあります。
次回に続く
【コロナウイルス時事情報】
そんな中国の武漢から新型コロナウイルスが広がりました。どうしてなのか?…誰もが等しく疑問を抱きました。当初は武漢では酪農が盛んで、貧しい酪農農家では豚の飼育小屋で人間がそのまま寝る習慣があります。そんな飼育小屋での生活から、豚インフルエンザ(変異したウイルス)が人間に感染し、拡散して行ったと考えられていました。しかし、すぐに1956年に設立された中国科学院武漢ウイルス研究所からの変異ウイルスが漏洩したのでないかとの疑問が世界中で強く抱かれるようになりました。
その後、世界保健機関WHOによって新型コロナウイルス感染症の流行 (2019年-)と武漢華南海鮮卸売市場(生動物及び魚介類を扱う市場)の関連性があるとする声明がなされたことでメディアの注目が一気に集まりました。2020年1月1日には感染拡大の予防のために、この華南海鮮卸売市場は閉鎖されています。
いずれにしても中国政府の情報隠蔽政策では、世界中が徒らに推測と疑念を膨らませ行く結果となってしまいます。これからも中国がこの様な情報隠蔽政策を続けて行くなら、私たちは常に猜疑心の塊となってこの大国と接して行くべき不安定な状況に置かれた生活を余儀なくされるのでしょうか。
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