潮騒は聞こえず(41)

チャーリーは軍需物資の横領を続けていた。週に1、2度の横領で日々の生活は何とか維持出来たが、それ以上の贅沢は望むべくもなかった。もっと何か大きな仕事を手がけなければと、彼の欲望は膨らんで行った。そんな折も折、耳よりな情報が流れて来た。来月6月12日横浜にサンフランシスコから大型の貨物船が大量の軍需物資を運んで来ると言うのだ。トラック100台分以上はありそうだとの話である。GHQのトラックだけでは足りず日本のトラックも何10台かは徴収するらしい。このニュースに接してチャーリーは全身に身震いを感じた。直ぐ吉次に連絡を取った。何としても、このチャンスを物にしたい。100台以上ものトラック輸送だ。1台や2台のトラックが何処かに消えたって不思議でも何でもないだろう。それにGHQ以外のトラックも使用すると言っている。
これ程のチャンスが何処にあると云うのだ。座間基地近くのGHQの兵隊がよく行くバーでチャーリーと吉次は、一杯のビールにも殆ど手を付けず小声で目だけは血走った面持ちで話し合っていた。一人二人で出来る仕事ではない。チャーリーの仲間も他に必要だし、信頼出来る日本人も欲しい。トラック2台分の物資ともなれば利益は計り知れない。これまでの様なボストンバックにウイスキーを10本やそこら横流ししていたケチな仕事とは大違いだ。二人とも溜息ばかりが多かった。グラスに半分ぐらいビールを一気に飲んだ所で吉次がキッパリと言い切った。「チャーリー、分かった。日本人とトラックの事は俺が何とかする。しかしGHQの仲間集めはお前さんの仕事だ。そして儲けは半分づつだ。それで良ければ協力する」と、自信あり気に答えた。チャーリーもビールを少しだけ飲んで「よし、それでOKだ」と、自分を励ます様に言った。この時、吉次の頭には素早い計算が出来上がりつつあった。「あいつしかいない。でもただでは仲間には入って来ないだろう。何とか恩を売りつける格好が必要だ。自分から進んでこの仕事に首を突っ込む様にさなきゃならなえ」と吉次が秘かに思った相手は、あの米問屋の徳治だった。上野のバッタ市場で幾度かちょっとした仕事をした事があり、少しは気心も知れている。気っ風も良さそうだし、いつも目をギラつかせ儲け話を探している。小金も持っているみたいだ。俺みたいな一匹狼と違って使用人もかなりいそうだ。問題は奴をどうやって丸め込むかだ。
明日に続く
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