潮騒は聞こえず(43)

チャーリーはGHQの中で誰を仲間に誘い込むかで思い悩んでいた。やはりこのプランは黒人だけでやり遂げなければとの決意だけは固めていた。白人のお偉方はもっと大っぴらに遣りたい様にやっているが、あいつらが俺達とフェアーに手を組むなんてのはありっこない。あるとすれば俺達に罪をかぶせるだけだ。だからどうしたって黒人だけでやり遂げなけりゃ駄目だ。将校も一人はどうしたって欲しい。物資運搬の命令書や指示書を何とかするにゃ将校クラスの力がどうしたって必要だ。黒人で信頼出来る将校で金に困っている奴じゃないと、この話には乗って来ないだろう。黒人の将校なんて多くはいないし、さて誰がいる。そう言えば何日か前にマイケルがクラブのバーで飲んでいた時「国に帰ったらスーパーの経営者になるのが俺の夢だ」とか言っていたな。俺と同じ少尉だが、何処までが本音か一度は確かめる必要がありそうだ。後は下士官クラスも一人いると仕事はもっと楽になるんだが。さて何奴に絞るかだ。黒人で下士官はと言うと、待てよ軍会計事務所のアントニーはどうだろう。あいつには給料の前借りにずいぶんと骨を折ってもらった。同じ黒人同士だから聞いてくれた無理な前借りだ。彼を巻き込む価値はありそうだ。何て言ったって会計事務所は強いゃと、チャーリーは一人であれこれ考えていた。
それから数日間をかけてチャーリーは二人を何とか口説き落とし仲間に引き入れる事に成功した。吉次が仲に入ってチャーリーと徳治は3度ほど話し合いをもった。言葉のハンデは吉次の下手な英語に頼るしかなかった。そして吉次が何処かで裏切らない事を信じて。しかしここ迄来たら後戻りは出来ない。チャーリーとの幾度かの話し合いの後、徳治はトラック探しと倉庫探しに奔走した。1台は米問屋で使用しているトラックはあったが、残りの2台を探し出すにはかなりの苦労があった。誰にもトラックの使用目的を説明する事なく、どんなに高い賃料を払ってでもともかく探して来る様にと使用人達を急き立てた。倉庫は、ある華族屋敷の焼け跡に打ち捨ててある大きな土蔵が見つかった。こうして徳治は20日余りで必要な物の全てを手配し終えた。その準備にはかなりの金を使った。吉次には残金の5千円を執拗に要求され、総ての仕事が成功するまでは払えないと途中までは突っ撥ねていたが、これは飽くまでも情報料だと厳しく言い寄られれば、それ以上に支払いを延ばす事も難しく、結局は吉次の根気に負ける様な形で払ってしまった。何時の間にか吉次の口車に乗せられた格好で徳治は人生最大の賭けに出る事になった。この大きな賭けに負ければ全財産を失う事さえ起こり得るのだ。いや、それだけでは済まないかもしれない。MP(米国の憲兵)にでも捕まれば暗い監獄への道さえ待っている。しかし後戻りは最早や絶望的に不可能だ。
明日に続く
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