潮騒は聞こえず(49)

GHQのチャーリーの仲間達と徳治の使用人たちの結束した連携プレーが、予想外の成果を上げた。彼等は夫々に自分の未来に行き詰まっていたのである。他に選択の余地がなかったのだ。軍需物資の横領は確かに犯罪その物ではあるが、混乱の時代では生き抜く知恵とも言える。本郷の土蔵一杯に隠された横領物資、トラック11台分はどれ程の現金に変わるのか、その処理方法は神経過敏に注意深く行わなければ折角の苦労が水の泡になってしまう。しかしチャーリー達は早く現金を欲しがった。この大仕事には一切加わらなかった吉次も動物的嗅覚から、また徳治の前に顔を出し始めた。仕方なく吉次に500円だけを与え、チャーリー達との交渉役を頼む事にした。徳治は横領に成功した物資はトラック7台分だけだと彼等に説明した。更にこれだけの物資を人知れず処分するには一年近くはかかるとも言い添えた。徳治の話は分かるが、そんなには待てないとチャーリーも喰い下がって来た。今度は徳治の方から聞いてみた。「あの7台分の軍需物資で幾らぐらいになると考えている」のかと。チャーリーは「日本の物価は分からないが数千ドルには成るはずだ」と言って来た。「全てを上手に売り抜ければ、数千ドルも夢ではないかもしれないが、コーラやワイン、葉巻などは足がつきやすいのでチャーリー達に引き取って貰っても構わない」と、徳治は少し困ったような顔で逆に迫った。「それは出来ない。そんな事をすれば、こっちが危ない事になる」と、チャーリーも簡単には折れず、「じゃあ幾らなら現金を用意出来るのだ、少なくても1ヶ月以内に」と、問い詰めて来た。徳治はしばらく黙っていた。吉次が急に横から口を出した。「徳さん1000ドルで、どうだい。俺が説得してみるよ」「1000ドルか、ちょっと厳しいな。まあ仕方がない、それで手を打つよ」と、徳治は渋々納得した。しかしチャーリーは首を縦に振らなかった。吉次が今度は向きになって「チャーリーよ、幾らならOKなんだよ」と、聞き返した。「1500ドルだ」と、キッパリ言って来た。「1500ドルは無茶だ。こっちは一年近くは現金化できないのだ、吉さんお願いだからそこの所を詳しく説明してくれよ」と、訴えるように徳治は頼んだ。吉次が散々に説得して1200ドルで何とか話は成立した。チャーリーの10年分の給料だ。もちろん何人かの仲間と分け合わなければならないのだが、それにしても大金だ。
明日に続く
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