潮騒は聞こえず(102)


ほとんど諦めていた自分の子供、それが浮気の結果だとしても清吉は己れの血を分けた分身が、どうしても欲しくなって来た。25才の里美はどうしても堕ろすと言う。「里美、お前にマンションを買ってやる」「本当!」「本当だとも、だから俺の子を産んでくれ、なぁ頼む」「でもそれだけじゃあ、毎月の生活費はどうするの。大きなお腹でクラブのホステスなんて出来ないわ」「そんな事は分かっている。俺だって、こうなった以上お前をそんな店で働かせたいとは思わない。生活費の事なんか心配するな」
「そこまで言うなら清ちゃんの子供、産んで上げようかな!」と、里美は彼の首に手を回して来た。おどけた調子で「清吉、浮気は許さないぞ。私以外の女は今後、絶対に抱かないって誓えるか」と聞く、甘えた声で絡んで来た。「誓う、俺の子供を産んでくれるなら何だって誓う」「じゃあ今の奥さんと別れる事も誓うか」「う~ん、難しい問題だな」「嫌よ私、正式に入籍してくれないなら清ちゃんの子供は、やっぱり産めない」
「そんな無理を言うなよ」「何が無理よ、私は清ちゃんの子供を産むだけのマシンじゃあないの、正式な入籍をしてちゃんとした両親の許で子供って育てるものじゃない」と、泣きじゃくりながら里美は清吉を責めた。彼は16才も年の離れた里美に押され放しだ。
いくら何でも意味もなく紀子と、そんな単純に離婚が出来る訳がない。どうやって里美を説得するかだ。「里美、お前の言う事はもっともだか、一体どんな理由で離婚するのだ。こっちから妙な申し出をしてみろ、慰謝料だけでも幾らになるか、大変な金額になるぞ。裁判にでもなれば何年かかるか、下手すると財産の殆んどは向こうの者になってしまう、それでも良いのか!」
「そうか、確かに清ちゃんの言う通りかもしれない。じゃあ、どうするの」「ここはじっくり作戦を練って、離婚すべき正当な理由を考えなければ…どちらにしたって、時間とタイミングが必要だろう」「分かった、清ちゃんの言う通りかもしれない。でも何時かは私を正式に入籍してくれるんでしょう、それだけは確かだって今ここで約束して」「少し時間はかかるかもしれないが、お前を必ず入籍させると約束はする」と、清吉は心の迷いを悟られぬ様に渋々答えた。
明日に続く
関連記事

コメント