潮騒は聞こえず(109)

清吉は必死の抗弁を試みた。
「出来たら俺の子供として、お前に認めてもらいたいのだ」
「どう認めろと言うの、貴方の子供である事に間違いはないのに」
「いや、そう云う事ではなく…何と言ったら良いのかな、つまり俺とお前の子供として育てたいのだ」
「私とは何の血も繋がっていないのに、私に育てろと言うの。第一、産みの親の里美さんは、それで納得するの」
「それは何とか俺が話す。本当に身勝手な事は重々承知しているが、翔太をこの家に入れ正式な俺の後継ぎにしたい。紀子、頼む。俺の我が儘を何とか許して欲しい」
「そこまで自分勝手な事を言われるとは考えもしなかった。お断りします、絶対に嫌です」
「それはお前の怒るつもりは分かるが、店はどうする。どんなに店を大きくしたって後継ぎがいなければ、どうにもならないじゃないか」
「それは私なりに考えています。でも貴方が何処かで作って来た子供は、この店には出入りさせません」
「まあ今すぐに返事出来る話でない事は、分かっているが俺の本音だ」
「貴方の本音は分かりましたが、私はどんなに言われても絶対に嫌です」
「紀子、今の俺には何も語る資格はない。ただ許しを乞うだけだ」
「何の許しを乞うの、外で子供まで作って、それを私たち夫婦の子供として認めてくれって、そして私が翔太君の母親になれって、何処からそう云う言葉が出て来るの」
「いや、そんな難しい話ではなく、たまたま俺に男の子が授かったから、
この店の跡取りにしてはと思っただけだ」
「たまたまって何よ、貴方のやっている事は浮気じゃないのよ。子供が出来て、それを後継ぎにしたいなんてのは浮気とは言わないのよ。
本気も本気、私は全く無視されているのよ。紀子、許してくれなんて言う話ではないでしょう」
「じゃあ後継ぎの問題はどうするのだ」
「それと、これとは別の問題でしょう。今は古い封建時代じゃあないのよ。
別に血が繋がっていなくも養子縁組で上手く店が続いているケースだって沢山あるわよ」
「そんな、実の子がありながら!」
「貴方にとっては実の子でも、私には何の関係もないわ」
さすがの清吉にも、それ以上には言葉が続かなかった。
「分かった、その話は止めにしょう。しかし、一つだけ教えて欲しい事がある。何故そんなに色んな事をお前は知っているのだ。私立探偵でも使ったのか」
紀子は一瞬ドキッとしたが、そんな相手に隙を見せるような表情は一切出さず
「馬鹿ね、そんな面倒な事はしなくても税務署がちゃんと教えてくれたのよ。品川に買った5千万円のマンション、その資金は何処から出たのかと聞かれたわよ。
貴方はゴルフの会員権を購入したって言ったわね、ところが、それは里美さんにマンションを買って上げたのでしょう。
今度から気をつけてね、不動産物件を買うと税務署のチェックが入ると云う事を。銀行ローンで手に入れたならともかく、貴方は現金で買ったでしょう。
当然、税務署が興味を示すのよ。それに、あの5千万円は貴方のお金じゃないから、後で会社にちゃんと返して下さいね」
清吉には何の返す言葉もなかった。
明日に続く
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