迷子の医者(3)

「やっぱり癌かもしれないんだ、そうなのかね。まだ間に合うのかね」
と、母親は溜息まじりに聞いて来た。
急には答えがたい問いかけであるが私は、
「大丈夫だよ、早期の癌だったら盲腸の手術と変わらないよ」
と、必要以上に明るく答えた。
「そうだと良いんだがね」
と、私の言葉にすがっている様だった。しかし、私自身は自分の言葉に疑問を感じていた。母を励ますのではなく、自分を励ましていたのだ。
翌日、村上先生にもう一度相談してみる。彼自身が数年前、肺癌の疑いで手術までしているので話に説得力がある。
同じ医者でも一度も病気らしい病気を経験した事がない医者と、それなりに大病を乗り越えて来た医者とでは、何か大きな違いがある様な気がしてならない。
その彼が言うには
「最低でも2ヶ所の専門医には診てもらった方が良いです」とか、「この近くで通える範囲で、もっとも信頼出来る胸部外科の第一人者を探すべきだ」
とかの、貴重な意見が幾つか提案された。
それでは、その胸部外科の第一人者は一体どこにいるのだ。
村上先生が母校の胸部外科の友人に聞いてくれた。
答えは北山大学の呼吸器外科教授の野村先生だと言う。野村先生は縦隔腫瘍の権威だとも言う。正に打ってつけだ。
急に目の前が開ける思いがした。
私は嬉々として北山大学に電話を入れてみる。野村教授の外来診察日を確認したかった。
すると、学会でしばらく不在だと言う。
今度の診察日は4月18日であるとの事、2週間も先の話だ。そんなには待ってはいられない。
少しイライラして来る。何とタイミングが合わないのだ。傍らにいた村上先生がそんな私を見て、また貴重なアドバイスをしてくれた。
それなら最初に「国立がんセンタ-」で診てもらったらと。
「そして北山大学でセカンドオピニオンをお願いしたら、万全ではないでしょうか」
との意見だ。
もっともな意見である。心の中の動揺が大きいのか、冷静ではいられなくなっている。どんな意見にも気持ちが不安定になって行く。
夕方になって母にまた電話をする。
築地の「国立がんセンタ-」に行ってみようかと言うと、母親はうれし気に頷いた。
「がんセンタ-」と言うブランド名に圧倒的な信頼をおいている様だ。そんな話のなりゆきから明日の東和大学への外来受診は取り止める。
先ずは「がんセンタ-」だと言う思いが、胸の中を大きく支配していた。
そして今度は村上先生が貴重な助言をしてくれた。
インタ-ネットを通じて「国立がんセンタ-」のホ-ムペ-ジを探せば良いと言うのだ。そこから色々な情報が得られると教えてくれた。
落ち着いて考えれば、どうっていう事もない話だが、その時の私にはまるで思いもつかない貴重な助言であった。
早速インタ-ネットを開けて「国立がんセンタ-」のホ-ムぺ-ジにアクセスしてみる。各科のドクタ-紹介はもちろん顔写真まで載っていた。
そんな中から呼吸器外科のペ-ジを開けてみる。何人かのドクタ-の外来診察日を確認する事が出来た。
明日に続く

*予告*連載小説「潮騒は聞こえず」が
ブログ上から、お読みになれるのは12月末日までとします。それ以後ブログ上からは削除されます。

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